大阪大学 物理工学科目

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南極の大気から、タンパク質の世界へ
大学院博士後期課程3回生
量子計測領域・太田朝貴さん

サンプルイメージ 2025年5月から7月にかけて、英国・オックスフォード大学で研究留学を経験した、博士後期課程3年の太田朝貴さん。 精密工学コースでは、超音波と光を利用して、病気に関係するタンパク質を検出する研究に取り組んでいます。一方、学部時代に研究していたのは、南極のオゾンホール。研究対象を大きく変えながら、物理を軸に新しい分野へ挑戦してきました。 今回の留学ではどのような研究や生活を経験したのでしょうか。オックスフォードで感じた研究の面白さや、海外へ踏み出したことで得られたものについて聞きました。

南極の大気から、タンパク質の世界へ

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Q. 大阪大学大学院・物理学系専攻・精密工学コースではどのような研究をしているのですか?
A. 超音波と光を組み合わせた装置を使って、病気に関係するタンパク質を短時間で検出する研究をしています。体内のタンパク質の中には、ある条件で集まって線維状の構造をつくり、パーキンソン病などの神経変性疾患に関係するものがあります。私は、凝集のきっかけとなる微量の物質を、短時間で検出するための装置や測定方法を開発しています。簡単に言えば、溶液に超音波を当てながらタンパク質が集まっていく様子を光で観察し、病気の兆候につながる小さな変化を見つけようとしています。
 実験だけでなく、装置の改良、電子回路、プログラミング、データ解析、数理モデルの構築なども自分で行います。生物や医学に近い研究テーマですが、実際に使っているのは、超音波、光、振動、流体、計測といった物理工学の考え方です。

Q. 物理工学系なのに、病気の診断などに応用できる研究をしているんですね!以前から生命科学を研究していたのでしょうか?
A. いいえ。学部時代には別の大学で、南極オゾンホールと大気の流れについて研究していました。気象庁の長期再解析データを用いて、大気の流れや温度変化を地球流体力学の観点から解析する研究です。 大学で物理を学ぶうちに、身の回りの現象を数式や法則によって理解できることに強く惹かれました。
一方で、物理を純粋に探究するだけでなく、その知識をものづくりに生かし、人の役に立つものをつくりたいという思いもありました。 物理とものづくりの両方に取り組める環境を求めて、大学院から大阪大学大学院・物理学系専攻・精密工学コースに進みました。
南極大気から超音波工学へ、研究対象だけを見ると大きく変わりました。ただ、直接見ることのできない現象を、観測データや物理法則を手掛かりに理解するという点では共通しています。 物理を学んでいると、対象が変わっても、「何が現象を支配しているのか」「どうすれば測れるのか」と考えることができます。現在の研究でも、学部時代に身につけた考え方は生きていると思います。

超音波の中心にある現象を、もっと深く知りたい

サンプルイメージ Q. オックスフォード大学へ留学したきっかけを教えてください。
A. 私の研究室で使っている超音波装置では、液体中に「キャビテーション」と呼ばれる小さな気泡が発生します。気泡が膨張したり、急激につぶれたりすることで、強い流れや衝撃が生じ、タンパク質の反応が促進されます。 研究を続ける中で、装置の条件を少し変えただけでも、実験結果が大きく変わることがありました。しかし、試験管の中で気泡がどのように生まれ、反応に影響しているのかを直接見ることは簡単ではありません。 「自分は超音波を使っているけれど、その中心にある物理を本当に理解できているだろうか」と感じるようになり、一度、原理に立ち返って学びたいと思いました。

Q. 具体的にどのようにして留学の準備を進められましたか?
A. ちょうど私は、大阪大学の博士人材育成プログラムであるカデットプログラムに所属しており、海外で研究経験を積むための支援を受けられる環境にありました。さらに、物理工学コースからも留学費用の一部を支援していただきました。海外の研究室で学びたいと思っても、費用や手続きの面から、実際に一歩を踏み出すのは簡単ではありません。こうした制度があったことで、自分の関心を研究留学という具体的な挑戦につなげることができました。 受入先には、超音波キャビテーションを利用した化学反応やエネルギー生成を研究している、オックスフォード大学のJames Kwan先生の研究室を選びました。指導教員の先生にも相談しながら、受入れの依頼から住まい探し、入国や大学での手続き、渡航方法の検討まで、自分で一つずつ準備を進めました。 研究内容だけでなく、「海外で研究するための環境を自分でつくる」という過程そのものも、今振り返ると大きな経験だったと思います。

装置がなければ、自分で作る

サンプルイメージ Q. 現地ではどのような研究をしましたか?
A. 円筒型の超音波装置を自分で組み立て、その装置を使って化学反応を効率よく進める条件を探しました。 最初は部品の加工や装置の組み立てから始め、超音波が装置内をどのように伝わるのかを学びました。
その後、自作した装置を使い、水素を効率よく発生させる条件や、窒素化合物が生成しやすい触媒を調べました。 実験はオックスフォード郊外のScience Parkで行い、週に一度、James先生と進捗を議論しました。
 特に印象に残ったのは、「必要なものがなければ、自分でつくる」という研究室の文化です。 既製品だけに頼らず、金属や樹脂を加工し、配管をつなぎ、自分たちが知りたい現象に合わせて装置をつくっていました。 私も大阪大学で装置開発をしているので、このDIY精神にはとても共感しました。 装置が思いどおりに動かず苦労することもありましたが、自分で考えた仕組みが実際に動き、測定結果として現れたときは、やはりわくわくしました。

英語は、正しく話すためではなく、考えを伝えるための道具

サンプルイメージ Q. 海外の研究室で苦労したことはありますか?
A. 一番大変だったのは英語です。
 相手の話すスピードについていけなかったり、質問したいことがあるのに、うまく言葉にできなかったりしました。 日常会話では、聞き取れたふりをしてしまい、途中から何の話か分からなくなることもありました。
 研究室には、イギリスだけでなく、ベトナム、イタリア、フランス、中国など、さまざまな国のメンバーがいました。 それぞれ違うアクセントで英語を話していますが、文法の細かな間違いを気にするよりも、自分の意見をはっきり伝えることを大切にしていました。 その姿を見て、英語は考えを相手に届けるための道具なのだと気づきました。 うまく説明できなければ図を描く。分からなければ、もう一度聞く。完璧な表現を考えて黙っているより、まず言葉にしてみることが大切でした。

街全体が大学のようなオックスフォード

サンプルイメージ Q. オックスフォードでの生活はいかがでしたか?
A. 歴史的な建物と自然が日常の中に溶け込んだ、とてもきれいな街でした。 本屋やスーパーの近くに大学の図書館があり、石畳の路地を曲がると、数百年前に建てられたカレッジが現れます。 「街の中に大学がある」というより、「街全体が大学になっている」ように感じました。
私はBalliol Collegeの寮に滞在しました。 共有キッチンでは世界各国から来た学生と顔を合わせ、料理をしながら話す時間も楽しみの一つでした。 ただ、物価の高さには苦労しました。円安も重なり、外食をすると簡単に数千円かかります。 学食、自炊、キッチンカーを組み合わせながら生活していました。 その過程で、「イギリスの硬水でゆでたパスタは、弾力があっておいしい」という知見も得ました。 何度か試したので、ある程度の再現性はあります(笑)。
週末にはロンドンやスコットランドのエディンバラを訪れました。 同じイギリスでも街並みや歴史が大きく異なり、帰国後はヨーロッパ史にも興味を持つようになりました。

分からなくても、一つずつ試せば前に進める

サンプルイメージ Q. 留学を通して、変化したことはありますか?
A. 以前よりも、分からない状況を怖がらなくなりました。 海外では、交通機関の使い方、買い物、手続き、研究装置の扱い方まで、毎日のように分からないことが出てきます。 そのたびに自分で調べ、人に聞き、とりあえず試してみる必要がありました。 そうした経験を重ねる中で、「最初から全部分からなくても、一つずつ解決すれば何とかなる」と思えるようになりました。
これは研究にも通じています。研究では、誰も答えを知らない問題を扱います。 実験が予想どおりにいかなかったときも、その理由を考えることが、次の発見につながります。 留学前の私は、十分に理解してから動きたいと考えることが多かったと思います。 オックスフォードでは、その慎重さに加えて、分からないままでも、まず試してみる姿勢を学びました。 環境も言語も違う場所で、装置をつくり、実験し、さまざまな背景を持つ人と議論する。 その経験を通して、改めて「研究は楽しい」と感じることができました。

海外へ行くことを、特別な人だけの選択肢にしないでほしい

サンプルイメージ Q. これから留学したい・興味があると考えている学生の方にメッセージをお願いします。
A. 海外で研究することに興味があっても、「英語が得意ではない」「自分にできるだろうか」と不安に感じる人は多いと思います。 私自身も、出発前は不安でした。けれど、現地に行ってみると、最初から何でもできる必要はありませんでした。 分からないことを聞き、助けてもらいながら、一つずつできることを増やしていけば大丈夫です。
また、自分の専門を一つに決めきれていなくても、心配する必要はないと思います。 私は南極の大気を研究した後、タンパク質を研究し、留学先では超音波を使った化学反応を扱いました。 研究対象が変わっても、これまで身につけた考え方は新しい分野で生かすことができます。 そして、異なる分野や文化に触れることで、自分の研究を別の角度から見直すこともできます。
少しでも興味があるなら、まず先生や先輩に話を聞いてみてください。 海外へ行くことは、限られた特別な人だけの選択肢ではありません。 完璧な準備が整うのを待つよりも、好奇心を持って一歩踏み出すことが、思っていた以上に新しい世界につながるかもしれません。

最後に、物理工学科目/精密工学コースや所属研究室について一言ください!

サンプルイメージ 私の所属する量子計測領域・荻研究室では、音と光を使って、半導体などの機能性材料から、タンパク質や細胞まで、一見まったく異なる対象を研究しています。 研究対象は幅広いですが、「目に見えない現象をどうすれば測れるのか」を考え、そのために必要な測定装置や計測手法まで自分たちで生み出していくことが、荻研究室の魅力です。 学生それぞれが異なるテーマに取り組んでいるため、分野を越えた議論から思いがけない発想が生まれることも、この研究室の面白さです。
物理工学科目/精密工学コースでは、物理を学ぶだけでなく、その知識を新しい計測技術やものづくり、医療・産業への応用までつなげられる場所です。 「身の回りの現象をもっと深く知りたい」「物理を使って、まだ世の中にないものをつくりたい」という人にとって、きっと夢中になれる環境だと思います。

太田さんの所属研究室(量子計測領域)のHP
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